養育費・婚姻費用に先取特権が導入されます|離婚協議書の位置づけが変わる?

監修:弁護士 細江智洋

この記事のまとめ

  • 改正民法(令和6年公布)は、令和8年4月1日に施行予定。
  • 施行後は、「子の監護のための費用」に先取特権が認められ、優先的に回収可能となる。
  • 離婚協議書をもとに強制執行が可能になる(子の監護のための費用に限られます)。
  • 将来的な実効性を考え、協議書の作成段階から法的専門家に確認を。

はじめに

令和6年の民法改正が公布され、養育費や婚姻費用の一部に「先取特権」が付与される制度が導入されることになりました。
施行は令和8年(2026年)4月1日までに予定されています。

この改正によって、離婚協議書の法的な意味合いが大きく変わります
「強制執行はできない」書面から、「養育費・婚姻費用の定め」が適切な内容で合意・記載されていれば、「強制執行しうる」書面に変わります。

※ただしこの場合の強制執行は、「子の監護のための費用として相当な額」に限られます。

この記事では、民法改正により、離婚協議書の重要性がどう変わるのかについて、弁護士がわかりやすく解説します。

目次

1. 改正民法のポイント~先取特権の付与

令和6年改正により、

• 「子の監護のための費用」に先取特権が認められる
•  その具体的な金額は法務省令で定められる予定

とされています。

つまり、すべての婚姻費用・養育費が対象ではなく、子の生活に必要な部分に限られる見込みです。その具体的な金額は、法務省令に委ねられており、まだ確定していません(令和7年10月現在)。

2. 先取特権って何?

先取特権とは、他の債権者よりも優先して弁済を受けることができる権利です。

つまり、もし相手が複数の借金を抱えていても、養育費や婚姻費用のうち「子の監護のための費用として相当な額」にあたる債権が、一般債権に優先的に支払われる仕組みです。

そして、先取特権は判決書に代表される「債務名義」によらずに差押えできるので、裁判所の手続きや公正証書の作成を経ることなく差押えができるようになります。

3. 実務上の手続と「離婚協議書」の今後の位置づけ

改正法が施行されると、父母間・夫婦間で合意した養育費・婚姻費用の一部について、先取特権に基づく強制執行が可能になります。

その際、「養育費支払いの合意を記した離婚協議書」が、債権の存在を示す疎明資料として利用できる可能性が高まりました。

つまり、離婚協議書に「いつからいつまで」「養育費として月〇円を支払う」等、適切な記載があれば、それを裁判所に提出して、強制執行(差押え)を申し立てることができるということです。

【元裁判所書記官からのひとこと】

今までは「協議書だけでは強制執行はできない」が常識でした。

しかし改正法施行後は、適切に書かれた協議書があれば「養育費の一部を強制執行で回収できる」可能性が高まります。

ただし、離婚協議書の記載内容に不備があれば強制執行の申立てが認められない可能性もあります。

つまり、今後はきちんと書けるかが重要になります。

4. 離婚協議書を作成する際のポイント

協議書に養育費の合意を記載する場合のポイント

• 合意する当事者両名の署名・押印
• 作成日付
• 「婚姻費用として」「養育費として」といった、「何の支払の合意か」の明示
• 「誰が誰に払うか」の明示
• 子の氏名・生年月日
• 養育費の金額(月額)
• 支払時期・方法(例:毎月末日、振込先口座)
• 支払期間(例:○年○月から子が20歳に達する日の属する月まで、子が大学を卒業する年の3月まで等)

このほか、「進学、事故、病気などの特別な支出については別途協議する」ことを定めるなど、想定外の支出が生じたときの対応を決めておくことをお勧めします。

 

離婚協議書の作り方とテンプレートはこちら(内部リンク)

5. 公正証書との関係

改正法の施行により「子の監護のための費用」については、協議書による強制執行が可能になります。しかし、その範囲は「子の監護のための費用」として法務省令で定めた額に限られます。

それを超える額の養育費や婚姻費用、慰謝料や財産分与の強制執行については、「債務名義」が必要です。
そして、「債務名義」の代表格が「強制執行許諾文言付き公正証書」です。

つまり、離婚協議書自体は私文書ですが、公正証書化しておくことで、「子の監護のための費用」以外の合意についても、執行力を付与することができます。

そういった意味で、「離婚協議書の作成」は「最低ライン」ということもできます。

【弁護士細江智洋のコメント】

実務上よく作成される条項をもとに、参考として離婚協議書のテンプレートをご用意しました。

しかし、テンプレートはあくまで参考であり、トラブルの回避を保証できるものではありません。
また、財産分与に不動産が含まれる場合は、登記名義や住宅ローン残債の確認、持分の移転登記などが必要です。また、高額な財産分与の合意は、正確な知識がないと離婚後に後悔するリスクもあります。

法的・税務的な要素も絡むため、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

6. 離婚協議書の作成については、弁護士にご相談ください

令和8年施行予定の民法改正により、離婚協議書の位置づけは大きく変わります。

強制執行を見据えた書式を整えることで、実効性ある取り決めが可能になります。

離婚協議書の作成・チェックについては、ぜひ弁護士にご相談ください。

 

[離婚協議書の作り方とテンプレートはこちら]

▶【関連記事】 [離婚協議書作成プラン|弁護士が内容をチェック・作成]

この記事を担当した弁護士

みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
横浜で離婚問題に携わり12年以上、離婚問題を280件以上解決した実績あり。
あなたの気持ちに寄り添いながら、より良い未来のために、離婚手続きや養育費、慰謝料を親身にサポート。お気軽にお問合せください。

この記事の編集・SEO担当者

阿部絵美(元裁判所書記官)
横浜家庭裁判所で3年間、離婚調停などを担当。現場の知見を生かし、弁護士細江智洋の法律解説に元書記官としての視点をプラスして編集しています。
※ 法律解説は弁護士監修です。

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