夫・妻の「使い込み」でお悩みの方へ
監修:弁護士 細江智洋
この記事のまとめ
- 生活費や教育費など家族のための支出は通常「使い込み」にはあたらない
- ギャンブルや自分だけの趣味などで、常軌を逸した浪費は離婚や財産分与で問題になる
- 相手が応じない場合、裁判で離婚を認めてもらうには証拠が必要
- 財産分与では「浪費した側の取り分を減らす」形で調整されることが多い
- 裁判での慰謝料請求は難しい
- 別居後の財産の持ち出しも、原則として分与の対象に含めて精算する
- 借金は本人が返済するのが原則。ただし日常家事債務や保証人の場合は例外
- 不審な支出や通帳管理の不透明さは早めの相談サイン
はじめに
「妻に家計を任せていたら貯金がほとんどなかった」
「夫がギャンブルで貯金を使い果たした」
「別居の際に通帳を持ち出され、預金が減っている」──。
こうした“使い込み”のご相談は、不倫やDVと並んで非常に多いテーマです。
ただし、不倫や暴力と違い、浪費が直ちに違法行為とされるわけではありません。裁判で離婚できるか、財産分与や慰謝料に影響するかは、状況次第です。
この記事では、「使い込み」と離婚・財産分与・借金問題の関係を、離婚に強い横浜の弁護士が、わかりやすく解説します。
目次
1 離婚や財産分与で問題となる「使い込み」とは
「思ったより貯金ができていない」「趣味や美容にお金をかけすぎている」だけでは、離婚や慰謝料の対象にはなりません。
問題になるのは、
① 個人的な目的で
② 家計に照らして常軌を逸した金額を
③ 夫婦の共有財産から支出した場合
というケースです。
2 「使い込み」を理由に離婚できるか
夫婦の合意があれば、理由を問わず離婚は成立します。
ただし、相手が拒否する場合は裁判になり、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかが問われます。
• 不相当に高額な借入を繰り返し、返済不能に陥った
• ギャンブルや非違行為で家計を破綻させた
といった事例では裁判で離婚が認められる可能性が高くなります。
裁判を見据えるなら、クレジット明細や領収書、通帳などの証拠確保が必要です。
【実務コメント:元裁判所書記官のひとこと】
調停や裁判では“浪費の程度”を数値や資料で示すことが重要です。収入や家計に比べて、浪費の金額が多いことがわかる資料を集めましょう。
3 「使い込み」は「財産分与」で調整することがほどんど
浪費や使い込みがあれば、財産分与の割合が修正されることがあります。
財産分与は5:5で分けるのが通常です。
しかし、浪費をして夫婦の財産を減らした側が「負の貢献」をしたとされ、6:4などに減らされることもあります。
財産分与の対象は婚姻期間中の共有財産(預貯金・不動産・株式・解約返戻金付き保険など)。
結婚前の財産や相続は、通常は財産分与の対象外です。
弁護士細江智洋の離婚解決事例
4 浪費と財産分与に関する裁判例
浦和地裁昭和61年8月4日判決(判例タイムズ639号208頁)
〈裁判所が認定した事実〉
・夫がした不倫の示談金とし595万円を夫婦の共有財産(預金や保険、勤務先からの借入)から支払った。
・夫が自分だけの趣味のために支払総額300万円で車を購入し、妻の給与が振り込まれる口座からローンを支払った。
・そのほか夫は、家計を無視してスーツやゴルフ用品を買い、4週間の海外研修に行った際の賞与55万円と手当20万円も浪費した。
その結果、別居時には共働きしてためた貯金300万円強がなくなり、妻の貯金もなくなった。
〈裁判所の判断〉
夫の浪費を共有財産に対する「負の貢献」と考え、夫から妻へ財産分与として500万円の支払いを命じた。
5.「使い込み」で慰謝料は認められるか
慰謝料は不可能ではありませんが、かなり難しいところです。
裁判で認められることは稀で、多くは財産分与での解決が図られます。
しかし交渉の中では、「使い込んだ分の補填」も含めた解決金の支払いを合意することもあります。
ただし、使い込みをする人に十分な資力がないケースが多いため、現実的には財産分与を軸に考える方が安全です。
また、使い込みをする人は支払い能力に欠けることが多いので、「支払いの確保」を意識した解決が重要です。
▶ 相手が決まったお金を支払わないときの対応については、こちらをご覧ください↓↓
【関連記事】[離婚と強制執行について]
6. 別居後の「使い込み」の扱い
財産分与の基準は「別居時点の財産額」です。
例:別居時に300万円あった預金を相手が200万円使い込んで残り100万円になっても、財産分与は300万円を基準に計算します。
つまり、持ち出されたからといって泣き寝入りする必要はありません。
▶︎ ただし、婚姻費用の支払いがなく、共有財産から生活費を支出した場合には、「未払い分の婚姻費用に充当」される扱いになることがあります。
【弁護士コメント】
別居時に共有財産を持ち出され、相手に使い込まれたとしても、財産分与は別居時を基準に考えられますが、ここで重要なのは「別居時の共有財産」が「いくらか、どんなものがあったか」を客観的に証明する資料の存在です。
「もっとあったはずだ」いうだけでは、有利な交渉はできませんし、裁判でも認められにくいです。
7. 配偶者がした借金を返済しなければならないか
原則、借金は本人の責任です。夫婦であっても、原則として相手の借金を返済する義務はありません。
ただし例外として、
1. 食費・光熱費などの日常家事債務
2. 保証人・連帯保証人になっている場合
では配偶者にも責任が及びます。
保証契約にサインしていないかどうかは、必ず確認しておきましょう。
8. チェックリスト:要注意サイン
- 預金が急に減っている
- 家計に不相応な高額な買い物がある
- 通帳やカードの管理が不透明
- ギャンブルや浪費の兆候がある
9. 弁護士に相談すべき理由
「使い込み」は、離婚や財産分与に影響するかどうかの線引きが難しく、証拠や法律解釈で結論が変わります。
弁護士に相談することで、
• 何を証拠として確保すべきか
• 財産分与・慰謝料・婚姻費用を含めた交渉戦略
• 裁判を見据えた有利な立証方法
を整理できます。
10. 弁護士からのメッセージ
浪費や使い込みは、金額以上に「信頼」を壊すものです。
しかし、不倫や暴力のように明確な違法行為ではないため、
「これが離婚理由になるのか」「財産分与で修正するほどの浪費なのか」という問題があります。
私、弁護士細江智洋は、離婚弁護士として横浜で12年以上活動し、これまで280件以上の離婚問題を解決に導いてまいりました。
あなたの状況をわかりやすく整理し、将来のためにどのような選択肢があるのかを、共に考えサポートします。
一人で抱え込まず、まずは初回30分の無料法律相談で、不安な気持ちをお聞かせください。
この記事を担当した弁護士
みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
横浜で離婚問題に携わり12年以上、離婚問題を280件以上解決した実績あり。
あなたの気持ちに寄り添いながら、より良い未来のために、離婚手続きや養育費、慰謝料を親身にサポート。お気軽にお問合せください。
この記事の編集・SEO担当者
阿部絵美(元裁判所書記官)
横浜家庭裁判所で3年間、離婚調停などを担当。現場の知見を生かし、弁護士細江智洋の法律解説に元書記官としての視点をプラスして編集しています。
※ 法律解説は弁護士監修です。















