婚姻費用についての詳しい解説

このようなお悩みはありませんか?

「夫(妻)と別居を始めたけど、生活費をまったく支払ってくれない…」
「子どもを育てているのに、相手から支援がない…」

結婚している夫婦には、たとえ別居していても、お互いの生活を支える婚姻費用分担義務があります。
婚姻費用は、衣食住などの生活費はもちろん、お子さんの養育費も含まれる大切なお金です。

しかし現実には、「婚姻費用がもらえない」「いくら請求できるのかわからない」「相手が支払ってくれない」といったトラブルが多く発生しています。
この記事では、婚姻費用の基礎知識から請求の方法相場よくあるトラブルやその対処法までを、弁護士がわかりやすく解説します。

婚姻費用のことでお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。

目次

婚姻費用とは

このセクションのまとめ

✔ 婚姻費用とは結婚生活を営む上で必要な一切の費用をいい、配偶者や子供の生活費が含まれます
✔ 夫婦は互いに、「自分と同等の生活水準を相手にもさせる」という生活保持義務を負っています
✔ 収入の多い相手が生活費を支払わない場合自分が子どもを監護している場合には、婚姻費用分担請求をすることができます

1 婚姻費用とは何ですか?

結婚生活を営む上で必要な一切の費用をいい、夫婦の衣食住にかかる費用子どもを育てるための費用医療費、葬祭費、交際費など全般が含まれます。

2 婚姻費用分担請求とは

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担すると定められています(相互扶助義務。民法760条)。つまり、夫婦は互いに婚姻費用を分担し合う義務を負っており、これは、「自分と同じ生活水準を相手にも維持させる義務」であると考えられています。
これに基づき、別居などの事情で相手から生活費を受け取れなくなった場合には、婚姻費用の支払いを求めることができます。このような請求を婚姻費用分担請求と言います。

3 養育費との違い

婚姻費用 ・結婚している夫婦間で支払う
・配偶者の生活に必要な費用+子どもを育てるのに必要な費用
養育費 ・結婚していない(離婚した)父母間で支払う
・子どもを育てるのに必要な費用のみ

養育費は、婚姻関係にない(離婚した・そもそも結婚しなかった)父母間で、子どもを監護する親(同居して育てている親)に対して、非監護親(別居している親)が、子どもを育てるために必要な費用を支払うものです。
これに対して、婚姻費用は、別居している婚姻中の夫婦が、子どもの養育費も含めた「結婚生活に必要な一切の費用」を分担し合うものであり、夫婦の一方の生活費と養育費両方が含まれます。

どのようなときに請求する?

このセクションのまとめ

✔ 別居時に婚姻費用分担請求をするケースが多いですが、同居中でも請求は可能です
✔ 同居中の場合は、住居費がかからないので金額が低くなることがあります

1 典型的なケースは、別居をはじめた場合です

婚姻費用の分担を請求する典型的なケースは、夫婦が別居をすることにより、相手から生活費を受け取れなくなった場合です。収入が低い方が高い方に対して請求するケースが多いのですが、子どもを引き取って監護している方が請求する場合、相手より収入が高くても認められるケースもあります。

2 同居していても請求できます

同居中であっても、相手が生活費を渡さない場合や家庭内別居の状態であれば、婚姻費用の請求が認められるケースがあります。
ただし、同居中で相手が住居費や光熱費を支払っている場合には、後でご説明する「算定表」よりも、金額が低くなる可能性が高いです。

婚姻費用の相場はいくらですか?

このセクションのまとめ

✔ 夫婦の合意で金額を決める場合、双方が納得していれば金額の設定は自由です
✔ 「相場」については裁判所の婚姻費用算定表が参考になります
✔ 裁判所の算定表では、夫婦の収入子どもの人数・年齢をもとに算出します

1 夫婦の話し合い・合意があれば、金額に「決まり」はありません

婚姻費用の金額は、夫婦がそれぞれの実情にあわせて話し合って決めることができ、双方が納得していればいいので、「決まった金額」があるわけではありません。

2 「相場」を知りたいときは裁判所の「婚姻費用算定表」を確認しましょう

婚姻費用算定表は、裁判所が公表している早見表で、夫婦の収入と子どもの人数・年齢から、婚姻費用のおおまかな目安を知ることができます。

裁判所の婚姻費用算定表はこちら

具体的な算定表の見方について

① まずはお子さんの人数と年齢からどの「表」に該当するかを選びます。
② 選んだ「表」の縦軸で「支払う親の年収」を、横軸で「受け取る親の年収」を見て交差する場所を探します。
③ 縦軸と横軸が交差する場所にある「金額」が養育費の目安です。
※ このときの「収入」は、手取りではなく「総収入」です。

《例》①16歳と9歳のお子さんがいる場合、裁判所の婚姻費用算定表のうちの「(表14)婚姻費用子2人表(第1子15歳以上・第2子0歳〜14歳)」を選択します。②「支払う親の収入」が給与所得で500万円、「受け取る親の収入」が給与所得で200万円だとすると、③婚姻費用の目安は「10万円〜12万円」の帯の「下の方」ということになります。

婚姻費用はいつからいつまで請求できる?

このセクションのまとめ

✔ 生活費をもらえない状態であれば請求でき、離婚するまでは支払い続けます
✔ 過去の分の婚姻費用は、「請求し始めた時点」までしか遡ることができません

1 よくあるのは別居中のケースですが、「生活費をもらえない」状況であれば請求可能です

婚姻費用の分担請求は、夫婦の相互扶助義務に基づくものであり、相手が生活費を払ってくれない状態であれば、請求することができます。実際には、別居中に請求するケースがほとんどです。

2 離婚するまで支払いの義務が生じます

婚姻費用分担義務は婚姻関係から生じるものなので、婚姻中は支払う義務があり、離婚すると支払義務はなくなります
したがって、離婚に向けて別居している場合にも、実際に離婚が成立するまで支払い続けることになります。

3 過去の婚姻費用は請求できますか?

現在の実務では、たとえ生活費をもらえていない時期が過去にあったとしても、「請求しなかった過去の分」を遡って請求することは難しいです。しかし、「請求しはじめた時点」に遡って請求することは認められるケースが多いです。例えば、令和2年1月に内容証明郵便などで「婚姻費用分担の請求」を行い、その後「1ヶ月10万円」というふうに金額が決まれば、令和2年1月まで遡って請求することが認められるケースが多いです。
したがって、婚姻費用を「いつ請求したか」を後で証明できるようにしておくことが重要です。

婚姻費用の金額に影響する事情について

このセクションのまとめ

✔ 相手が住んでいる家の住宅ローンを支払っている場合には、婚姻費用が減額されることがあります
✔ 子どもが大学や私立学校に通っている場合には、学費が加算されあることがあります
✔ 不倫などをした方から婚姻費用を請求している場合には、減額されることがあります

1 婚姻費用の金額は、夫婦の収入や子どもの人数・年齢以外の事情にも影響を受けます

裁判所の手続きで婚姻費用を判断する場合には、主に夫婦の年収や子どもの人数・年齢をもとに算定されますが、そのほかに、住宅ローンの支払い子どもの私立学校の学費不貞など請求する側の事情も影響します。

2 相手が住んでいる(自分が住んでいない)自宅の住宅ローンを支払っている場合

通常、住宅ローンを支払うことは、自分の「資産形成」のための支出であり、婚姻費用の場面では考慮されません。
しかし、義務者(婚姻費用を支払う方)が住宅ローンを支払っている家に、権利者(婚姻費用の支払いを受ける方)が住んでいる場合、義務者(婚姻費用を支払う方)は自分の住居費と住宅ローンの二重払いになる一方で、権利者(婚姻費用の支払いを受ける方)は、住居費を負担せずに家に住むことになり、事情によっては不公平が生じます。
そのため、裁判例の中には、公平を図るために婚姻費用から一定の住居費を差し引いたものもあります(東京家裁平成27年6月17日審判判例タイムズ1424号346頁)。

ただし、支払っている住宅ローンの金額がそのまま差し引かれあるわけではありません。また、住居費を控除することを認めなかった裁判例もあり、金額が低くなるかは事案ごとの判断になります。

3 子どもが私立学校・大学に通っているなどの特別費用

裁判所の算定表で考慮されている教育費は、公立学校の高校卒業までを前提としていますから、私立学校や大学の学費、塾代などを婚姻費用に「上乗せ」できるかで争いになるケースがあります

婚姻費用に私立学校や大学の学費、塾代等を「上乗せ」できるかどうかの基準

義務者(婚姻費用を支払う方)が私学や塾に通うこと、大学進学等を承諾したかどうか
②承諾していなかった場合には、支払う側の社会的地位や学歴、収入等から、私学や塾に通うことが不合理ではないといえるか

①または②の基準を満たす場合には、婚姻費用への「上乗せ」が認められます。
ただし、「全額」とは限らず、父母の収入で按分するケースが多いです。

4 権利者(婚姻費用の支払いを受ける方)が「有責配偶者」である場合

有責配偶者とは、「婚姻関係が破綻」する原因を作り出した配偶者をいい、不貞(不倫)やDVをしたケースが典型例です。
たとえば、不倫をして一方的に家を出て行ったのに婚姻費用の支払いを請求することは、「信義則に反する」というのが現在の実務の考え方です。
ただし、婚姻費用の請求が「全く」認められないとわけではありません。特に子どもの養育費にあたる部分については、子どもの生活を守るためにも、請求が認められるケースが多いです。また、有責配偶者の生活費にあたる部分についても、有責性の程度などを考慮して判断されます。

婚姻費用の請求方法

このセクションのまとめ

✔ 婚姻費用を請求する流れは、話し合い⇒(内容証明郵便)⇒調停申立て⇒審判手続きが一般的です

1 まずは夫婦で「話し合い」を試みる

相手が生活費を支払ってくれない場合や別居を開始した場合、まずは協議(話し合い)からスタートします。双方納得して婚姻費用の金額や支払い方法、条件を決めることが最も早期に紛争を解決できる方法であり、相手も納得していた方が「不払い」にもなりにくいからです。
話し合いで解決できる場合には、内容を書面にすることをお勧めします(合意書のサンプル無料ダウンロードはこちら)。
もっとも、円滑な話し合いが期待できないケースや、DVから逃れて別居をはじめたケースなど、無理して「話し合い」をしない方がいいケースもあります。
交渉段階から弁護士が介入することで、夫婦間でやり取りをするストレスや危険を回避でき、早期解決にも期待できますから、一度無料相談をご利用ください

2 話し合いが難しい場合や長期化する場合には、「内容証明郵便」で請求することをおすすめします

話し合いを試みたものの折り合いがつかず長期化しそうな場合やそもそも話し合いが難しい場合には、早い段階で「内容証明郵便」による請求を行います。婚姻費用は、金額が決まっても請求した時点までしか遡れないので、「いつ請求したか」を明確にしておく必要があるからです。
なお、弁護士にご依頼いただく場合には、相手に「弁護士がついた」という通知と「婚姻費用を請求する」という通知を内容証明郵便で同時に送付するので、早い段階から「婚姻費用を請求したこと」を明らかにできます。

3 「話し合い」「交渉」でまとまらなければ調停申立て

「話し合い」や「交渉」では合意できない場合には、家庭裁判所に「婚姻費用分担調停」を申し立てます。調停は裁判所で行う調停委員を介した話し合いの手続きです。
1〜2か月に一度のペースで調停期日を設け、双方の主張や事情などを調停委員に伝えながら合意を目指します
離婚を希望する場合には、婚姻費用分担調停と離婚調停を同時に申し立てることもあります。通常は同じ日時に調停期日が指定され、同時進行されます。ただし、婚姻費用は「生活に関わる」問題なので、裁判官や調停委員の進行としても離婚の話し合いに優先して進められることが多いです。

4 調停手続きでも合意できなければ審判手続きに移行

調停手続きでは合意にいたらない場合、手続きは「審判手続き」に「移行」します。
これは、調停では解決しないと裁判官が判断した場合に、調停手続きを終わらせて審判手続きに移行するというもので、新しく申立てを行うわけではありません
審判手続きは、合意を目指す調停とは異なり、裁判官が婚姻費用の支払義務の有無や金額について判断を示すものです。

相手が支払わないときの対処法

このセクションのまとめ

✔ 決まったとおりの支払いがない場合に、もっとも強力な手段は「強制執行」です
✔ 家庭裁判所の手続きで内容が決まった場合は「履行勧告」もできますが、強制力がありません
✔ 強制執行するための「債務名義」がない場合は、調停や訴訟を検討します

1 せっかく婚姻費用の金額が決まっても、相手が支払わなくなるケースが見受けられます

話し合いや調停、審判手続きで婚姻費用の金額や支払い方法が決まっても、相手が急に支払いをやめてしまうことや、一部しか支払わなくなってしまうというケースが散見されます。
そのような場合の対処法は、「どの手続きで婚姻費用を決めたか」によって異なります

2 もっとも強力なのが、相手の給与などへの「強制執行」です

強制執行とは、判決など一定の手続きによって決められた義務を相手が履行しない(果たさない)場合に、相手の財産を差し押さえるなどして、強制的に権利を実現する手続きです。
調停や審判、強制執行認諾文言付き公正証書などで婚姻費用の金額を決めた場合には、相手の給与や預貯金を差し押さえて、強制的に支払いを実現することができます。

給与の差押えと「差押え禁止財産」

給与を全額差し押さえてしまうと、債務者(支払義務を負う人)が生活できなくなってしまいます。そこで、給与を差し押さえる場合には、受ける給付の4分の3(給与の4分の3が33万円を超えるときは33万円)差押え禁止財産とされ、4分の1(または33万円を超える金額)しか差押えできないことになっています(民事執行法152条1項)。
しかし、婚姻費用や養育費の不払いは債権者側(支払いを受ける権利がある人)を困窮させてしまいます。そこで、婚姻費用や養育費については特例を設け、2分の1まで差し押さえることができるようになっています(民事執行法152条3項)。

2 家庭裁判所の手続きで婚姻費用が決まった場合には「履行勧告」もできます

履行勧告とは、家庭裁判所調査官が債務者(支払義務を負う人)に対して、電話や手紙で約束を実行するように働きかける手続きです。調停、審判、裁判などを家庭裁判所の手続きを経て決まった場合のみ、利用できます。
電話などでも申立てができ、費用がかからない利用しやすい手続きですが、「働きかけ」に過ぎず、強制力がないのがデメリットです。

3 「債務名義」がない場合には、調停申立てや民事訴訟を検討します

夫婦間で婚姻費用の合意があるものの、強制執行できる形の公正証書など「債務名義」がない場合には、それぞれのケースに応じて調停の申立てや民事訴訟を検討します。
合意内容があいまいな場合には調停を申し立てるケースもありますし、合意内容が明確でしっかり書面化できている場合には、民事訴訟で支払いを求めるという場合もあります。

婚姻費用のよくあるトラブル・お悩み

婚姻費用については、次のようなトラブルやお悩みが多く寄せられています。
これらの問題は、弁護士が介入することで早期解決・ストレスの軽減を期待できます。

✔ 相手が決まったとおり支払ってくれない・支払いが滞る
✔ 話し合いが進まない・相手が話し合いに応じない
✔ 相手が提示する金額に納得できない
✔ 子どもの学費が塾代の分を支払ってもらえない
✔ 支払いの始期や終期についてもめている
✔ 相手が不倫したのに婚姻費用の支払を求めてきた
✔ 婚姻費用を請求したいが、相手と直接会ったり連絡することは避けたい

婚姻費用でお困りの方は弁護士にお任せください

婚姻費用は、法律上の権利であると同時に、あなたやお子さんの生活を守る大切な制度です。しかし、実際には支払いがなされなかったり、適正な金額を受け取れていなかったりするケースが少なくありません。

当事務所では、【年間150件以上】の離婚・男女問題に関する相談実績を持つ経験豊富な弁護士が、あなたの状況を丁寧に伺い、最適な対応方法をご提案します。

• 婚姻費用の請求をしたいが、何から始めればよいかわからない方
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この記事を担当した弁護士
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みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋

神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
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