親権行使者の指定とは?共同親権で意見が合わないときの手続を解説
監修:弁護士 細江智洋
この記事のまとめ
- 共同親権では、子どもに関する重要な事項を父母が共同で決めることが基本です。
- 特定の事項について父母の協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に親権行使者の指定を求めることができます。
- 対象となるのは、進学、居所、重大な医療、財産管理、一定の身分行為などです。
- 親権行使者の指定は、親権者を単独親権に変更する手続ではありません。
- 身上監護全般を一方に委ねる監護者指定や、監護を分担する監護の分掌とは異なります。
はじめに
共同親権を選んだ場合、父母は、子どもの利益のために親権を共同して行使することが基本となります。
もっとも、離婚後の父母が、子どもの進学先や居所、医療などについて、いつも同じ意見になるとは限りません。
しかし、父母の協議がまとまらないままでは、入学手続や治療、財産管理などを進められず、子どもの生活に影響が生じることがあります。
このような場合に利用できるのが、「親権行使者の指定」の手続です。
この記事では、親権行使者の指定が必要になる場面、対象となる事項、監護者指定や監護の分掌との違い、家庭裁判所の手続について解説します。
▶ 親権と監護権の違いや、共同親権における親権行使の基本については、こちらをご覧ください。
【関連記事】親権・監護権とは?共同親権・単独親権と判断基準を弁護士が解説
目次
1.親権行使者の指定とは?
親権行使者の指定とは、
共同親権のもとで、父母が共同して決めるべき特定の事項について協議がまとまらないとき、父または母のどちらが単独で親権を行使するかを定める手続です。
離婚後だけでなく、婚姻中であっても申し立てることができます。
親権行使者の指定によって、共同親権そのものが単独親権に変わるわけではありません。
また、父母のどちらか一方が、今後すべての親権を単独で行使できるようになるわけでもありません。
進学先、医療、財産管理などの重要な事項について、父母の意見が対立し話し合いで解決できないなど問題がある場合に、その事項を単独で決定できる一方を定める手続です。
▶ 離婚後に単独親権から共同親権へ変更する場合など、親権者変更の手続については、こちらをご覧ください。
【関連記事】親権者変更とは?共同親権への変更手続と判断基準を弁護士が解説
2.親権行使者の指定が問題になるのはどんな場合?
共同親権の場合でも、子どもに関するすべての事項を父母が共同で決める必要はありません。
食事や衣服、通常の習い事など、監護や教育に関する日常の行為については、父母の一方が単独で決めることができます。
そのため、父母の意見が合わない場合には、まず、問題となっている事項が「父母が共同で親権を行使すべき事項」に当たるかを確認する必要があります。
親権行使者の指定が問題になるのは、主に次のような場合です。
• 父母が共同で親権を行使すべき事項である
• その事項について父母で協議しても意見がまとまらない
• 子どもの利益のために、父母のどちらか一方が決定する必要がある
つまり、単に父母の意見が違うというだけで、直ちに親権行使者の指定が必要になるわけではありません。
まず、一方の親だけで決めることができる事項なのか、それとも父母が共同で決める必要がある事項なのかを整理し、後者について協議がまとまらない場合に、親権行使者の指定を検討することになります。
3.父母が共同で決める必要がある主な事項
親権行使者の指定の対象となるのは、父母が共同して親権を行使すべき特定の事項です。
主に、次の三つに分けて考えることができます。
子どもの監護や教育に重大な影響を与える行為
子どもの日常生活の範囲を超え、生活環境や将来に重大な影響を与える監護・教育上の判断です。
たとえば、次のようなものがあります。
• 子どもの居所の決定や変更
• 進学先の決定など、教育や学業に関する重要な判断
• 重大な医療行為
日常的な世話や教育については一方の親だけで決められる場合がありますが、子どもの生活や将来に大きな影響を与える事項については、原則として父母が共同で親権を行使します。
子どもの財産管理に関する行為
親権には、子どもの監護や教育だけでなく、子どもの財産を管理する権限も含まれています。
そのため、子どもの財産について重要な判断をする場合も、共同親権の父母による親権行使が問題になります。
たとえば、贈与などによって得た子どもの預貯金を引き出す場合などが考えられます。
子どもの身分行為に関する代理など
子どもの身分関係に関する行為について、親権者が法定代理や同意を行う場合です。
たとえば、15歳未満の子どもの氏の変更などが当てはまります。
このように、同じ「教育」や「医療」に関する事項であっても、すべて同じ扱いになるわけではありません。
通常の習い事と進学先の決定、一般的な診療と重大な医療行為では、子どもに与える影響の程度が異なります。
そのため、「教育に関することだから共同で決める」「医療だから一方で決められる」というように分野だけで判断するのではなく、具体的な行為の内容や子どもへの影響を踏まえて考える必要があります。
4.意見が合わなくても、親権行使者の指定が必要とは限らない
父母の意見が一致しない場合でも、直ちに家庭裁判所へ親権行使者の指定の申立てが必要になるとは限りません。
問題となっている事項が、そもそも父母の共同による親権行使を必要としない場合や、本来は共同で決める事項であっても、一方の親が単独で親権を行使できる場合があるためです。
監護や教育に関する日常の行為
食事、服装、通常の習い事など、日常生活に関する行為は、一方の親が単独で決めることができます。
たとえば、次のような行為です。
• 食事や衣服の決定
• 風邪などによる医療行為
• 通常の予防接種
• 習い事などの許可
もっとも、同じ種類の行為でも、子どもの年齢や健康状態、家庭の事情などによっては、日常の行為に当たらない場合があります。
そのため、行為の名称だけで判断するのではなく、子どもに与える影響を具体的に考えることが必要です。
子どもの利益を守るための急迫の事情がある場合
本来は父母が共同で決めるべき事項であっても、父母の協議や家庭裁判所の手続を待っていては適切な時期に親権を行使できず、子どもの利益を害するおそれがある場合には、一方の親が単独で親権を行使できます。
たとえば、緊急の医療行為がそれに該当します。
ただし、単に父母の協議がまとまらないことや、期限が近いことだけで、当然に急迫の事情が認められるわけではありません。
家庭裁判所の手続に必要な期間も踏まえ、父母の意見がまとまらない可能性がある場合には、できるだけ早い段階から対応を検討することが重要です。
5.親権行使者の指定と監護者指定の違い
監護者指定とは、
父母の一方を監護者に定め、その者に子どもの身上監護全般を委ねる制度です。
監護者が指定された場合、監護者は、日常的な世話や教育だけでなく、子どもの居所、重大な医療行為など、子どもに重大な影響を持つ監護に関する事項についても単独で決めることができます。
これに対して、親権行使者の指定は、
進学先や医療行為など、問題となっている特定の事項についてのみ、父母のどちらが決定するかを定める手続です。
また、監護者指定の場合と異なり、重大な影響を与える身上監護に関する事項のほか、
財産管理に関する行為や身分行為に関する事項も対象になります。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
• 監護者指定
⇨ 重要な事項も含めた身上監護全般を父母の一方に委ねる
• 親権行使者の指定
⇨ 共同で決めるべき特定の事項について、父母の一方に決定させる
子どもの監護全般について、父母のどちらか一方に決定権をまとめる必要があるのか、特定の事項だけを解決すれば足りるのかによって、利用する手続が異なります。
6.親権行使者の指定と監護の分掌の違い
監護の分掌とは、
子どもの身上監護について、父母が担当する期間や事項を分けることです。
たとえば、平日と休日で監護する親を分けたり、教育に関する事項を一方の親に委ねたりする方法があります。
監護の分掌は、父母が子どもの監護をそれぞれ分担する制度です。
これに対して、親権行使者の指定は、
共同で決めるべき特定の事項について意見がまとまらない場合に、特定の事項を決定する親を定める制度です。
整理すると、次のようになります。
• 監護の分掌
子どもの監護について、期間または事項ごとに父母の役割を分ける
• 親権行使者の指定
具体的な一つの事項について、どちらが決定するかを定める
たとえば、「教育に関する事項全般を同居親が担当する」と定めるのであれば、監護の分掌が問題になります。
これに対して、「今回の高校との在学契約について、父母のどちらが手続をするか」を決めるのであれば、親権行使者の指定が適しています。
▶ 監護者指定と監護の分掌については、こちらをご覧ください。
【関連記事】監護の分掌とは?共同親権下の監護者指定との違いを解説
7.親権行使者の指定の手続
親権行使者の指定が必要な場合には、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることができます。
通常はまず調停を申し立て、調停が不成立になった場合には、審判手続きに移行します。
家庭裁判所の調停・審判等の手続きが必要で、私的文書(公正証書を含む)で定めることは想定されていません。
他方で、裁判所のQ &Aによると、話し合いで解決できる場合には、父母の一方が他方の同意を得て共同あるいは単独で代理行為をすることもできます。
申立てができる人
申立てができるのは、父または母です。
申立先
原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
父母が合意した家庭裁判所に申し立てられる場合もあります。
申立てに必要な費用
申立てには、子ども1人につき1200円分の収入印紙と、連絡用の郵便料が必要です。
郵便料は、申し立てる家庭裁判所によって異なりますから、事前に確認しましょう。
なお、家事調停事件の郵便料は概ね1500円前後となる裁判所が多い印象です。
主な必要書類
一般的には、次のような書類を提出します。
• 申立書とその写し
• 父母それぞれの戸籍謄本
• 子どもの戸籍謄本
• 事情説明書
• 進行に関する照会回答書
親権行使者を決める事項によって、在学契約、子の氏の変更、養子縁組など、それぞれに応じた事情説明書を提出します。
▶ 家庭裁判所の調停手続の一般的な流れや期間、費用については、こちらをご覧ください。
【関連記事】離婚調停とは?流れ・期間・費用を弁護士が解説
8.申立ては余裕を持って行う
親権行使者の指定が必要になる場面には、入学手続、医療行為、財産に関する手続など、期限があるものも少なくありません。
しかし、家庭裁判所に申し立てても、直ちに結論が出るわけではありません。
家庭裁判所では、父母双方から事情を聴き、必要な資料を確認しながら手続を進めます。
そのため、原則としては、期限に余裕を持って調停を申し立て、まずは父母が話し合うことが望ましいでしょう。
ただし、進学先の決定や入学手続など、決めるべき事項の期限が間近に迫っている場合には、最初から審判を申し立てることも考えられます。
(期限切迫などの事情がある場合に、早ければ2、3ヶ月で審判が出る例もあるという裁判所の説明がありますが、裁判所ごとに繁忙度や人員の都合などもあり、必ずその期間に審判がでるという保証はありません。)
また、審判を申し立てた場合でも、個別の事情に応じて、裁判所が事件を調停に付すことがあります。
期限が迫りすぎており、家庭裁判所の手続を待っていては間に合わず、子どもの利益を害するおそれがある場合には、「急迫の事情」があるとして、一方の親が単独で親権を行使できる余地もありますが、常に認められるとは限りません。
単に期限が近いことや、父母の意見がまとまらないことだけで、当然に急迫の事情が認められるわけでもありません。
父母の意見がまとまらず、家庭裁判所の手続が必要になる可能性がある場合には、できるだけ早い段階で準備を始めましょう。
【元裁判所書記官からのひとこと】
家庭裁判所への申立てでは、「相手が反対している」というだけでなく、何を、いつまでに、なぜ決める必要があるのかを具体的に示すことが重要です。
進学先であれば願書や入学手続の期限、医療行為であれば治療の必要性や時期、財産管理であれば使途や金額などを整理しましょう。
期限がある手続ほど、申立ての準備を早めに始める必要があります。
9.親権行使者の指定で迷ったら弁護士に相談を
共同親権のもとで父母の意見が対立する場合でも、必ず親権行使者の指定を申し立てる必要があるわけではありません。
問題となっている内容によっては、日常の監護や教育に関する行為として一方の親が単独で決められる場合や、急迫の事情があるとして単独で親権を行使できる場合があります。
他方で、子どもの監護全般について父母の一方に決定を委ねる必要がある場合には監護者指定、教育など一定の範囲を継続的に一方の親に委ねる場合には監護の分掌を検討した方が適切なこともあります。
つまり、重要なのは「父母の意見が合わない」ということだけではなく、何について意見が合わないのか、どの範囲の決定を誰に委ねる必要があるのかを整理することです。
また、進学や医療など期限のある問題では、家庭裁判所の手続にかかる時間も考えて、早めに対応する必要があります。
弁護士に相談することで、親権行使者の指定が必要なケースか、別の手続を検討すべきかを整理し、申立てが必要な場合には、期限や必要な資料を踏まえて準備を進めることができます。
10.弁護士からのメッセージ
共同親権では、父母が子どもの重要な事項を共同で決めることが基本です。
しかし、離婚後の父母が、進学、医療、居所、財産管理などについて常に同じ意見になるとは限りません。
問題は、意見がまとまらないまま必要な決定ができず、その影響が子どもの生活に及んでしまうことです。
親権行使者の指定は、共同親権をやめるための手続ではなく、具体的な問題について、子どもの利益のために誰が決定するのかを整理するための手続です。
私は、離婚・男女問題を長年取り扱ってきた経験を踏まえ、問題となっている事項だけを見るのではなく、父母のこれまでの協議状況や子どもの生活、期限の有無なども整理しながら、適切な解決方法を検討します。
進学や治療など、判断を先延ばしにできない問題もあります。父母だけでの話し合いが難しいと感じた段階で、今後の対応を整理しておくことが大切です。
あわせて読みたい関連記事
主な参考資料
この記事を担当した弁護士
みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
横浜で離婚問題に携わり12年以上、離婚問題を280件以上解決した実績あり。
あなたの気持ちに寄り添いながら、より良い未来のために、離婚手続きや養育費、慰謝料を親身にサポート。お気軽にお問合せください。
この記事の編集・SEO担当者
阿部絵美(元裁判所書記官)
横浜家庭裁判所で3年間、離婚調停などの家事事件を担当。
裁判所での実務経験を踏まえ、弁護士細江智洋の法律解説に、
「調停の現場で実際に起きていること」が伝わる視点を加えて編集しています。
※法律解説は弁護士監修です。















