財産分与と持ち家・住宅ローンについての詳しい解説
このようなお悩みはありませんか?
「離婚したいけれど、自宅の住宅ローンが残っている」
「離婚後、子どもと一緒に自宅に住み続けたいけれど、自宅は夫名義になっている」
「離婚にあたって自宅を売却したいけれど、オーバーローンでマイナスが残ってしまう」
離婚を考えたとき、「家をどうするか」はとても大きな問題です。不動産は高価な財産であるうえに、住宅ローンが残っていたり、名義が片方だけだったりと、難しいポイントがたくさんあります。
また、結婚前に買った家でも、結婚してから一緒に住宅ローンを返していた場合、その分は財産分与の対象になります。さらに、家の価値よりローンが多い「オーバーローン」の場合、むしろマイナスの財産として財産分与の対象にならないこともあります。
このように、自宅といった不動産がからむ離婚問題では、法律やお金のことをよく理解しておくことが大切です。
このページでは、財産分与の基本から、住宅ローンがある場合の対応、家に住み続けたいときの注意点まで、横浜の離婚弁護士が分かりやすく解説します。
目次
財産分与に関する基礎知識
✔️ 財産分与とは、婚姻中に夫婦が築いた財産を、離婚に際して清算することです。
✔️ 特有財産(婚姻前に取得した財産や、夫婦の協力とは関係なく、例えば相続により取得した財産)は財産分与の対象になりません。
✔️ 財産分与は、離婚から2年以内に請求しなければいけません(改正法施行後は5年以内)。
✔️ これまで、財産分与の割合は2分の1が原則であると判断されてきました。
令和6年の民法改正により、以下の事情を考慮して財産分与の額及び方法を定めるという基準が明文化されました。「2分の1ずつ分ける」という原則からどのような変化が生じるのか、今後の司法判断が待たれます。
①財産の額
②その取得又は維持についての各当事者の寄与の程度
③婚姻の期間
④婚姻中の生活水準
⑤婚姻中の協力及び扶助の状況
⑥各当事者の年齢
⑦心身の状況
⑧職業及び収入
⑨その他の一切の事情
財産分与の対象になる「持ち家」とは?単独名義の財産はどうなる?
✔️ 婚姻中に夫婦で築いた「共有財産」が財産分与の対象となります。
✔️ 結婚前に取得した財産や相続によって得た財産は「特有財産」にあたり、対象ではありません。
✔️ 結婚前に取得した不動産であっても、婚姻中に返済した住宅ローンの分は財産分与の対象となります。
✔️ 夫婦どちらかの単独名義の財産であっても、財産分与の対象になり得ます。
財産分与の対象となる財産は、夫婦の「共有財産」である必要があり、夫婦どちらかの「特有財産」に当たる場合には、対象になりません。
「特有財産」とは、夫婦の結婚前に取得した財産や相続により得た金銭を原資として取得した財産をいい、財産分与の対象ではないと判断されてしまいます。
ただし、結婚前に購入した不動産であっても、住宅ローンを婚姻期間中に返済した場合には、婚姻中に返済した分は財産分与の対象となり得ます。
【具体例】
夫が結婚前に5000万円の住宅を購入し、1000万円の住宅ローンを返済、結婚後に4000万円を返済した場合、1000万円の返済によって形成された部分は特有財産、4000万円の返済によって形成された部分は夫婦の共有財産とまります。そのため、現在の不動産の価値の5分の4が共有財産として財産分与の対象となります。
持ち家の清算方法① 住宅ローンがない・完済した場合
1.住宅ローンがない場合の持ち家を離婚時に清算する方法
① 持ち家を売却し、売却代金から売却費用を引いた額(売却益)を分け合う
② 夫が持ち家を取得し、妻に「代償金」を支払う
③ 妻が持ち家を取得し、夫に「代償金」を支払う
①のように持ち家を売却する場合には、実際に売れた金額から、売却にかかった費用を引いた残りを夫婦で分け合うので、「持ち家の評価額」は問題になりません。それに対して②と③の場合には、持ち家の価値はいくらか、「代償金」はいくらかで争いになります。
2.代償金とは?
財産分与の「代償金」とは、夫婦の一方がある財産を単独で取得する場合に、他方に対して財産分与の割合に応じて支払われる金銭のことです。
例えば、3000万円の自宅を夫が取得するケースで、財産分与の割合が2分の1の場合には、夫が妻に対して代償金として1500万円を支払います。
3.持ち家の価値や評価額をどう決める?
財産分与における不動産の評価は、離婚時を基準に、「不動産会社に査定してもらう」「不動産鑑定士に鑑定してもらう」「固定資産税評価額による」「路線価格・公示価格による」などの方法があり、法律上、どれか一つに決まっているわけではありません。実務上多いのは不動産会社の査定です。無料で対応してくれる会社もたくさんあります。
代償金を支払う立場の人は持ち家の価値が低い方が得をしますし、代償金を受け取る立場であれば持ち家の価値が高い方が代償金も高額になるので、「持ち家を金銭に評価するといくらか」で争いになるケースがよくあります。
実際に、不動産会社の査定といっても、会社によって金額にバラつきがありますから、複数の会社に査定してもらうことが多いです。
不動産の評価額が争いになれば、最終的には離婚訴訟において、不動産鑑定士による鑑定を行い、その鑑定結果に基づいて裁判官が評価額を決定することが通常です。ただし、この鑑定費用は、一般的な居住用物件でも50万円前後になりますので、原告と被告の間で不動産の評価額について大きな開きがなければ、評価額について合意をすることも多いです。そのため、訴訟上の戦略としては、不動産鑑定士による鑑定となった場合にどれくらいの金額になる見込みかなども踏まえて進めることもあります。
持ち家の清算方法② 住宅ローンが残っている場合
1 住宅ローンが残っている場合でも、財産分与方法は基本的に同じです
① 持ち家を売却し、売却代金から売却費用を引いた額(売却益)を分け合う
② 夫が持ち家を取得し、妻に「代償金」を支払う
③ 妻が持ち家を取得し、夫に「代償金」を支払う
2 ただし、財産分与の対象は、住宅ローンの額を差し引いた残金になります
持ち家を売却する場合には、住宅ローンを完済して金融機関に抵当権を抹消してもらう必要があります。また、夫婦のどちらかが持ち家を単独取得して代償金を支払う場合でも、持ち家の評価額から住宅ローンの残額を引いた残りが財産分与の対象になり、通常はその半額(財産分与の割合)が代償金になります。
【具体例】
評価額3500万円、住宅ローン残高1500万円の自宅を夫が取得する場合
3500万円(評価額)-1500万円(住宅ローン残額)=2000万円(財産分与の対象)
財産分与の割合が2分の1ずつの場合、夫が妻に1000万円を支払うことになります。
3 ペアローンの場合は?
特に共働きのご家庭では、ペアローンを組んで住宅を購入したという方も多いと思います。
持ち家を売却して金銭を分け合う場合、アンダーローン(売却益が住宅ローン残額を上回るケース)であれば特に問題なく、売却額から住宅ローン残金や売却費用を差し引いた残りを夫婦で分け合います。
夫婦のどちらかが持ち家を取得して住み続ける場合には、相手の分の住宅ローンを借り換えや免責的債務引受けをして、持ち家を単独所有にするのが通常であり、そのようなことが可能か、金融機関との調整が必要になります。
離婚後も持ち家を共有名義にして、ペアローンの状態を残しながら、片方だけが住み続けるという方法も考えられますが、持ち家に住まない方に何かメリットがないと難しいでしょう。また、どちらかの支払いが滞ると持ち家が競売にかけられてしまったり、どちらかが勝手に「共有持分」を売却してしまうというリスクがあります。
4 相手名義の住宅ローンが残っている持ち家に住み続けることは可能?
売却せずに持ち家に住み続けたい場合には、残った住宅ローンをあなた名義に借り換えして、所有権もあなた名義に移転するのが一般的です。そのような借り換えができるのか、金融機関に相談する必要があります。
住宅ローンを相手名義にしたまま、事実上、住宅ローンの支払いをあなたが負担して持ち家に住み続けるという方法も考えられますが、その分ほかの財産を取得するなどのメリットがないと、相手が応じることは少ないでしょう。また、相手が住宅ローンの支払いをやめてしまうリスクや、勝手に不動産を売却してしまうというリスクが残ります。
5.住宅ローンの連帯保証人になっていませんか?
持ち家の住宅ローンが相手名義であり、離婚後も相手が持ち家に住み続ける場合には、あなたにはあまりリスクがないように感じられるかと思います。
しかし、住宅ローンの連帯保証人になっている場合、相手が支払いを怠ると、あなたに請求が来てしまうかもしれません。特にオーバーローンの場合には、自宅を競売にかけても住宅ローンが残ってしまい、その分の支払いを求められるリスクがあります。
もしあなたが連帯保証人になっていて、相手が持ち家を取得する場合には、他の人(相手の家族・親族など)に連帯保証人になってもらうなどして、連帯保証人から外れるよう交渉する必要があります。
オーバーローンの持ち家はどうなりますか?
1 オーバーローンとは?
このセクションのまとめ
✔️ オーバーローンとは、住宅ローンの残額が住宅の評価額(売却額・市場価値)を上回っている状態をいいます。
✔️ オーバーローンの持ち家は、分け合うプラスの財産がないので、財産分与の対象にはなりません。
✔️ オーバーローンの持ち家をどうするかは、他の資産があるかどうかで異なります。
✔️ 他に資産がなく、持ち家をローンの名義人が取得する場合には、価値が0円の財産として扱われ、ローンを分け合うことはしません。
✔️ オーバーローンの持ち家の他に資産がある場合には、他のプラスの財産から、オーバーローンによるマイナス分が差し引かれます。
オーバーローンとは、住宅ローンの残額が不動産の評価額を上回っている状態をいい、例えば評価額が2000万円の不動産に対して住宅ローンが3000万円残っている場合には、住宅を売却しても住宅ローンが1000万円残り、マイナスの財産になってしまいます。
このような場合には、夫婦で分け合うプラスの財産がないので、持ち家は財産分与の対象にはなりません。
2.オーバーローンの持ち家は、結局どうなるのでしょうか?
夫婦の一方がオーバーローンの持ち家を取得したり、処分をする場合、住宅ローン残高が不動産の時価を超えているため、その差額はマイナスの資産になります。
⑴ 他に資産がない場合① 名義人である夫が持ち家を取得して住み続ける場合
財産分与対象の財産がオーバーローンの不動産だけの場合で、名義人である夫が取得して引き続き居住をする場合、マイナスの資産ではなく単に「無価値=0円」とされることが多いです。
無価値とされるということは、結局、マイナスの部分はその不動産を取得する方が負うことになり、夫婦で分けることはしない、ということになります。不動産を取得するのは夫婦の一方なのに、今後その不動産を所有・使用しない他方がただ債務の清算金だけ支払うということが不公平と考えられるからです。
(2) 他に資産がない場合② 持ち家を売却する場合
持ち家を売却する場合は、一方が取得するわけではないので、債務を夫婦で分担することが公平ではありますが、通常専業主婦が残債務の半分を負わなければならないということにはなりません。実際には、個別的な事情、収入などを踏まえて決めることになります。
(3) 他に資産がある場合
通常、財産分与の対象は不動産だけではなく、預貯金、生命保険、株式、退職金など様々な資産があります。
財産分与は、夫婦の全資産および全負債を総合的に計算するため、オーバーローンの持ち家は他の資産や負債と合わせて評価されることが多いです。たとえば、他にプラスの資産がある場合、その資産からオーバーローンによるマイナス分が差し引かれます。
このように、オーバーローンの不動産も、他の資産や負債と総合して評価されるため、単純に「無価値」とは扱われず、他の資産・負債を含めた全体の財産分与計算において調整されることが多いです。
もっとも、オーバーローンの不動産の扱いは、一方が取得するのか、処分をするのか等の個別事情によって変わりますし、裁判所の判断も分かれており、画一的に決まっているわけではありません。
そのため、法の趣旨を踏まえて、あなたの立場での適切な処理を求めていくことが必要となります。
離婚を検討中の方のための持ち家チェックリスト
✔️ 持ち家の名義人(所有者・共有者)は誰ですか?
持ち家の所有者が登記上どうなっているか、正確な情報は法務局で「登記事項証明書」の交付を受けて確認できます。申請はオンラインでも行うことができます 法務省のサイトはこちら
✔️ 財産分与の対象となる持ち家ですか?
持ち家の購入時期は、結婚前と結婚後のどちらでしょうか。結婚後に購入した不動産であっても、婚姻中に支払った住宅ローンの分は財産分与の対象になり得ます。
✔️ 住宅ローンは残っていますか?住宅ローンの名義人は誰ですか?
住宅ローンが残っている場合には、住宅ローンの残額分を不動産の評価額から引いた分が財産分与の対象となります。また、住宅ローンがどちらの名義になっているかは、持ち家に住み続けたい場合に重要なポイントになります。
✔️ あなたは住宅ローンの連帯保証人になっていますか?
特に離婚後も住宅ローンが残る場合には、連帯保証人になっていないかを確認しましょう。離婚後であっても、相手が住宅ローンの返済を怠った場合に、あなたにも請求が来てしまう可能性があります。
✔️ 持ち家はオーバーローンの状態ですか?
オーバーローンかどうかは、不動産会社に市場価値を査定してもらい、住宅ローンの残額と比較することで確認できます。オーバーローンかどうかは、持ち家を売却するか住み続けるかといった判断をするときに重要なポイントです。
✔️ 持ち家を売却しますか?住み続けることを希望しますか?
持ち家を売却するのか、どちらかが住み続けるのかという問題は、夫婦双方の仕事や生活状況、経済状況、お子さんの事情のほか、オーバーローンか、住宅ローンの残額はどのくらいか、代償金を支払えるようなほかのプラスの財産はあるかといった様々な事情を考慮して決めるべき問題です。
もちろん、「自分がどうしたいか」という希望も大切です。一人で決めるには、あまりに考慮すべき事情が多くて難しい問題でもあります。ぜひ一度ご相談ください。
離婚と持ち家の問題は弁護士にご相談ください
家や住宅ローンが関わる離婚の話し合いは、とても複雑です。誰が住み続けるのか、住宅ローンはどうなるのか、代償金はいくらかなど、解決すべき問題がたくさんあります。
また、家の名義や住宅ローンの支払い状況、保証人になっていないかどうかなども、きちんと確認する必要があります。これらを一人で判断するのは、とても大変で難しい作業です。
離婚時に持ち家をどうするか、どのような条件で離婚するかは、離婚後の生活にも大きな影響を生じます。
弁護士に相談することで、あなたにとって一番良い方法を一緒に考えることができます。大切な家の問題、ぜひ専門家と一緒に解決しましょう。
↓ 法律相談についてはこちらもごらんください ↓
この記事を担当した弁護士
________________________________________
みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
当事務所は、離婚問題でお悩み方からのご相談を日々お受けしています。離婚相談にあたっては、あなたのお気持ちに寄り添い、弁護士の視点から、人生の再出発を実現できる最良の方法をアドバイスさせていただきます。まずは、お気軽にご連絡ください。