年金分割についての詳しい解説

はじめに

離婚について調べ始めると、「年金分割」という言葉を目にすることと思います。しかし、「年金分割って何?」「どうすればもらえるの?」と不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
年金分割は、長年専業主婦をなさっていた方や育児や介護などで働き方をセーブしていた方にとって、離婚後の生活を安定させるための非常に重要な制度です。
しかし、制度の内容や手続きはややこしく、誤解されていることも少なくありません。
本記事では、「年金分割とは何か?」という基本的な解説から、手続きの種類・流れ・必要書類、よくあるQ&Aまで、わかりやすく丁寧に解説しています。

将来の年金額に不安を感じている方にとって、お役に立てると幸いです。

目次

年金分割とは

1.年金分割とは

離婚時に行うことができる年金分割とは、離婚したときに、「婚姻期間中の保険料納付記録」を夫と妻の間で分割することです。合意分割の制度は2007年に、3号分割の制度は2008年に導入されました。
よくある誤解として、「夫がもらえる年金の半額が自動的に妻に支払われる」と思う方がたくさんいらっしゃいます。しかし、「夫の年金を半分もらう」のではなく、厚生年金額を算出するときの基礎となる「保険料納付記録」を分割するものであり、分割を受けた側は、分割された納付記録に基づく年金も、「自分の年金」として受給します

2.年金分割の対象とは?

厚生年金保険の保険料納付記録です。
かつては公務員を対象とした共済年金も年金分割の対象でしたが、平成27年に被用者年金が廃止され、厚生年金に統一されました。

3.いつまでに請求すればよい?

離婚時の年金分割は、「離婚から2年以内」に「年金事務所」に改定請求しなければいけないという期間制限があります。
家庭裁判所の「調停」や「裁判」で離婚した場合には、離婚が成立した日の翌日から2年以内に年金事務所に改定請求の手続きをしなければいけません。また、離婚後に家庭裁判所の「調停」や「審判」で元夫や元妻に対して「年金分割の請求」をする場合には、離婚から2年以内に家庭裁判所に申立てを行い、離婚の日から2年以上経ってから「調停」や「審判」が終わった場合には、「調停成立」「審判確定」から1か月以内に年金事務所に改定請求をしなければいけません。
なお、離婚後年金分割の改定請求前に元配偶者が亡くなった場合には、離婚から2年以内であっても、死亡から1か月以内に年金事務所に改定請求しないと年金分割ができなくなってしまうので、注意が必要です。

年金分割の種類

1.合意分割とは
年金分割の按分割合を、夫婦の合意によって決める(または調停・審判手続きで決める)方法による年金分割をいいます。多くの場合は0.5(半分ずつ)です。

2.3号分割とは
正規雇用された被用者(夫)の被扶養者(専業主婦や扶養内のパートタイム労働)について、被扶養者だった期間に夫が支払った厚生年金の保険料納付記録を2分の1妻に分割する制度です。

3.合意分割と3号分割の違い
3号被保険者であった期間の保険料納付記録を分割するのが3号分割であり、3号分割の場合「合意」や「調停・審判」といった手続きは不要です。

「年金分割の対象にならない」年金がある?

年金分割の対象となるのは「厚生年金の保険料納付記録」です。

この厚生年金とは、会社員や公務員などの被用者(雇用されている人)を対象としています。厚生年金は、基礎年金(国民年金)に上乗せされる形で支給されるものです。

年金分割の対象はこの厚生年金のみですので、他に「年金」と名の付くものには、厚生年金基金、確定拠出年金、国民年金基金などがあります。しかし、これらは「年金分割の対象」となる年金ではありません

これらの他にも、例えば、企業年金(企業型確定拠出年金DC、確定給付企業年金DB、企業年金基金)、個人年金(個人型確定拠出年金ideco、個人年金保険(生命保険会社が提供)なども、年金分割の対象ではありません。
このような資産については、年金分割制度ではなく、財産分与の対象とすることとなります。

合意分割の手続きの流れ

年金分割の方法

① 夫婦の話し合いで「年金分割の合意書」作成する方法
② 夫婦の合意内容を公正証書にする方法
③ 離婚調停・離婚裁判の中で「年金分割」についても決める方法
④ 離婚後に、「調停」「審判」で年金分割について決める方法

① まずは「話し合い」で決める方法を試す

離婚についての話し合いや、離婚後であっても(2年以内)、相手が任意に応じてくれそうなときには、まずは年金分割について合意に向けた話し合いをします。合意がまとまったら、離婚後に「年金分割の合意書」(書式があります)を作成して年金事務所に改定請求の手続きを行います。
この場合は基本的に元夫婦が揃って年金事務所に行く必要がありますが、一方の委任状があれば、元夫婦が揃って年金事務所に行く必要はありません。
ただし、相手にDV・モラハラ傾向があったり、話し合いが難しいと感じるときには、離婚協議の段階で弁護士にご相談ください。

② 話し合って「合意」ができたら「公正証書」の作成をお勧めします

「公正証書」とは、話し合って「合意」した内容を、公証役場で「公証人」が内容を確認して文書にしたもので、夫婦が自分たちで作成する「離婚協議書」よりも証明力が強く、内容によっては直ちに強制執行の申立てができる効力が強い書面です。
①の「年金分割の合意書」による場合、相手が離婚後に意見を覆して年金分割に協力しなくなってしまうリスクがありますが、「公正証書」の場合には、合意ができた段階で作成しておけば、離婚後に委任状なしで一人で年金事務所で手続きをすることができますので、あとから協力を拒まれるリスクがなくなります。
ただし、公正証書の場合は作成費用と弁護士に依頼する場合は弁護士費用がかかります。
もっとも、夫婦の話し合いで離婚をする場合には、財産分与や慰謝料、子どもの養育費など、他にも決めることがたくさんあり、高額な給付の合意をするケースも多いので、弁護士をつけて公正証書を作成し、いざとなったら強制執行できる準備をしておくことには大きなメリットがあります。

③ 離婚の話し合いがうまくいかないときは、離婚調停・離婚裁判を検討します

年金分割については、通常離婚条件の際の話し合いの中で合意することになりますが、離婚の話し合いがうまくいかない場合には、家庭裁判所での離婚調停・離婚裁判を検討します。
離婚調停が成立したり、裁判で離婚が認められたら、通常は年金分割も定めれられることになりますので、裁判所から年金分割の手続きに必要な「調書」の交付を受け、年金事務所で改定請求をします。
なお、離婚調停は「裁判所で調停委員を介して行う離婚の話し合い」ですが、離婚裁判は「離婚が認められるかどうか」を主張と証拠を出し合って争う手続きであり、難しいケースが多いです。
離婚の話し合いで折り合いがつかない、離婚条件に応じていいか不安な方は弁護士にご相談ください。

④ 離婚自体はできたけれど、年金分割の合意ができないときは、「調停」「審判」を申し立てます

離婚後2年以内であれば、もと配偶者を相手に「調停」や「審判」で年金分割を求める申立てができます。家庭裁判所では、通常、まずは「調停」による話し合いを試して、合意ができなければ裁判官が判断をする「審判」手続きを行います。多くのケースで、調停または審判で0.5(つまり半分ずつ)の年金分割が認められます。
調停で合意をしたり、審判で決まったら、調停調書謄本や審判書謄本の交付を受け、年金事務所で改定請求手続きをします。

裁判所の手続きを利用する場合「年金分割のための情報通知書」が必要です

請求先は年金事務所です。

「年金分割のための情報提供請求書」という書類に必要事項を記載して請求します。
マイナンバーか基礎年金番号を記載しますが、どちらを記載したかにより、添付書類が異なります。
マイナンバーカードや基礎年金番号通知書のほかに、夫婦の戸籍謄本か夫婦双方の戸籍抄本が必要です。

詳しくは日本転勤機構のウェブサイトをご覧ください。

このほか、50歳以上の方は「年金分割を行った場合の年金見込み額のお知らせ」を受け取ることができます。

年金分割の必要書類

1 標準報酬改定請求書
ウェブ上にも書式が用意されています

2 基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
請求者の基礎年金番号通知書等またはマイナンバーカード

3 婚姻期間等を明らかにすることができる書類
双方の戸籍謄本または抄本で6か月以内のもの。婚姻日と離婚日が記載されているもの。

4 請求日から1か月以内の双方の生存を証明できる書類
双方の戸籍謄本または抄本、住民票。請求書にマイナンバーカードを記入することで省略可。

5 年金分割の割合を明らかにすることができる書類(いずれか1つ)
 ・年金分割の合意書(夫婦の合意により作成)
 ・公正証書の謄本または抄本
 ・公証人の認証を受けた私署証書
 ・裁判所の手続きによる調停調書、審判書、判決書、和解調書の謄本

※ 詳細は日本年金機構のウェブサイトをごらんください

3号分割の流れと必要書類

1.3号分割の流れ

3号分割は、合意分割と異なり、相手の同意や裁判所の手続きは必要ありません
婚姻期間中(平成20年4月1日以降)に配偶者が厚生年金に加入していて、3号被保険者だった方が対象です。
「標準報酬改定請求書」と必要な添付資料を用意し、年金事務所に提出します。

平成20年3月31日以前の婚姻期間については、3号被保険者であったとしても合意分割が必要となりますので、ご注意ください。

2.3号分割の必要書

①標準報酬改定請求書

②基礎年金番号またはマイナンバーがわかる書類
(基礎年金番号通知書やマイナンバーカード)

③婚姻期間を明らかにすることができる書類
(双方の戸籍謄本・抄本)

④双方の1か月以内の生存を証明できる書類
(戸籍謄本、抄本、住民票)

※ 詳しくは日本年金機構のウェブサイトをご覧ください

年金分割のよくあるQ&A

1.共働きだと年金分割はできないのですか?
⇒ 共働きであっても、婚姻中に夫婦の一方または両方が厚生年金に加入していれば年金分割の制度を利用できます。共働きであっても、妊娠・出産や育児などの事情で保険料の納付額に差が生じてしまうことはよくあります。納付額が少ない方から多い方に年金分割の請求をするのが一般的です。
夫の対象期間報酬総額+妻の対象期間報酬総額×分割割合(通常0.5)で算出されます。

2.年金分割をした後に元夫が再婚した場合、妻が受給する年金額は減ってしまいますか?
⇒ 年金分割は、過去の保険料納付記録を分ける制度なので、再婚による影響はありません。

3.離婚後元夫が亡くなったのですが、2年以内であれば年金分割できますか?
⇒ 元配偶者(夫または妻)の死亡から1か月以内に年金事務所に改定請求をしないと、年金分割できなくなってしまいます。裁判所での調停や審判を経ていても、年金事務所での手続きが1か月以内に済んでいない場合には、請求できなくなってしまうので注意が必要です。
なお、年金分割の手続きをした後に元配偶者が亡くなった場合には、年金分割は有効で、影響を受けません。

4.年金分割をする場合、「年金分割のための情報通知書」は必ず取得しないといけませんか?
⇒ 年金分割の情報通知書は、家庭裁判所での手続きを利用する場合には提出を求められるので、取得する必要があります。他方、夫婦の話し合いで「年金分割の合意書」を作成する場合や「公正証書」による場合には、必ずしも必要ではありません。

5.内縁関係でも年金分割の請求はできますか?
⇒ 3号分割については、内縁でも分割請求できます。戸籍謄本や抄本に代えて、内縁関係にあったことを示す住民票などの書類と、双方が内縁関係であったことを認める署名のある申立書が必要です。

年金分割でお困りの方は、弁護士にご相談ください

年金分割の手続きは、制度の理解や必要書類の準備、家庭裁判所や年金事務所での対応など、慣れない方には非常に複雑でストレスのかかるものです。
特に、離婚自体の話し合いがうまくいない場合や、相手が手続きに協力してくれない場合には、調停や審判を通じての解決が必要になることもあります。

そのようなときは、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士は、年金分割の制度内容を踏まえたうえで、最適なアドバイスをし、必要な書類作成や裁判手続きの代理サポートもいたします。
また、財産分与や養育費、慰謝料など、離婚全体の交渉も同時に進めることができるため、効率的かつ安心して手続きを進められます。

「何から始めればよいか分からない」「自分が損をしてしまうのではないか」と不安を感じている方こそ、早めに弁護士にご相談いただくことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。

 

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この記事を担当した弁護士
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みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋

神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
当事務所は、離婚問題でお悩み方からのご相談を日々お受けしています。離婚相談にあたっては、あなたのお気持ちに寄り添い、弁護士の視点から、人生の再出発を実現できる最良の方法をアドバイスさせていただきます。まずは、お気軽にご連絡ください。

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