離婚問題と強制執行について
こんなお悩みはございませんか?
「養育費を払うって言っていたのに…」
「調停で決めた財産分与が、まったく支払われていない」
「面会交流の約束を守ってくれない」
離婚をしたからといって、すべての問題が終わるわけではありません。むしろ、離婚後に「相手が約束を守らない」という新たなトラブルに直面する方も少なくないのが現実です。
そのようなトラブルに対する最終手段が「強制執行」です。
このページでは、離婚に関連するさまざまな「強制執行」の基本知識から、手続きの流れや必要書類、費用や期間について、12年で実際に280件以上の離婚問題を解決してきた(2025年6月時点)、横浜の離婚問題に強い弁護士細江智洋がわかりやすく解説します。
目次
そもそも強制執行とは何ですか?
1 強制執行とは
強制執行とは、裁判など一定の手続きにより権利義務の内容が決まったのに、相手が義務を果たさない場合に、裁判所の手続きによって強制的に権利を実現することです。
裁判などで決まる「ある人に特定の行為を求める権利」を「債権」、「ある人に対し特定の行為をすべき義務」を「債務」といいます。
2 強制執行の種類
強制執行は、「金銭執行」と「非金銭執行」に大別されます。
金銭執行:
「お金の支払い」を債権の内容とする強制執行です。「AがBに100万円支払う」という内容が典型的です。
預金や給与、不動産、高価な動産などを差し押さえて、強制的に支払いを実現します。
非金銭執行:
「お金の支払い以外」の債権を強制的に実現する強制執行です。「Aが住んでいる家をBに明け渡す(建物明渡し)」「AはBに、子Cを引き渡す(子の引渡し)」などの内容が典型的です。
「建物明渡し」のように執行官が直接出向いて建物内の残置物を外に出し権利を実現する「直接強制」と、「秘密を洩らさない」「子どもの面会交流に応じる」など、直接強制になじまない性質の債権債務について行われる「間接強制」の方法があります。
離婚問題で強制執行するのはどんなケース?
離婚時に決めた条件を相手が守らないとき(相手が債務を履行しないとき)に、強制執行を検討します。
トラブルになることが多い「離婚条件」には、次のようなものがあります。
・養育費
・財産分与
・慰謝料
・面会交流 など
「約束したのに払ってくれない」「適当な理由をつけて面会交流を拒否される」「養育費が未払いになっている」という状態で、最終的に取り得る方法が「強制執行」です。
また、離婚前の「婚姻費用」も強制執行の対象となります。
強制執行ができる条件とは?
強制執行するには、次の3つの条件を満たしていることが必要です。
① 「債務名義」を得ている
② 相手の住所を知っている
③ 相手の財産を把握している
① 「債務名義」を得ている
強制執行は、通常「執行力ある債務名義」の「正本」によって行います(民事執行法25条)。
典型的な債務名義には、次のようなものがあります。
・判決や和解調書
・強制執行認諾文言付き公正証書
・調停調書や審判
したがって、単に口約束で離婚条件に合意をした場合や離婚協議書を作成しただけの場合、直ちには強制執行できません。
ポイント 令和6年の民法改正で「こう変わる」(令和8年5月21日までに施行)
✔ 「子の監護に関する費用」(養育費や婚姻費用のうち子どもを育てるための費用)については、「債務名義」がなくても、夫婦の合意書などに基づいて強制執行できるようになります(先取特権の付与)。
✔ 養育費について夫婦の合意がなくても、最低限の養育費の支払いを確保するための「法定養育費」という制度が導入されます(法定養育費は、正式な金額が決まるまでの暫定的なものです)。
② 相手の住所を知っている
裁判所は、「相手がだれか」を住所と氏名で特定します。「債務名義」に記載された相手の住所と現在の相手の住所が異なる場合には、人違いを避けるために、住民票などで「住所のつながり」を示す必要があります。また、強制執行開始時には、裁判所が相手に通常「特別送達」という特殊な郵便で手続きの開始を知らせます。
したがって、「相手の住所」がわからない場合には、原則として住所の調査が必要になります。
債務名義を得ているものの、相手の現住所がわからないという方は弁護士にご相談ください。
③ 相手の財産を把握している
強制執行は、相手の「どの財産を差し押さえるか」を債権者が選択して申立てをしなければいけません。したがって、「相手がどのような財産を持っているのか」「どこから給料をもらっているか」「どの金融機関に口座を持っているのか」を知らなければ、強制執行の申立てはできません。
相手の財産を調べる方法がある?
相手の財産を調べる手続きには、「情報開示手続」と「第三者からの情報取得」があります。
財産開示手続:
強制執行をしても十分に支払いを受けられない場合にできる手続きです。債務者が裁判所に出頭し、財産状況を陳述します。金銭債権についての「執行力ある債務名義の正本」が必要です(民事執行法197条)。
第三者からの情報取得:
登記所や金融機関など、債務者ではない第三者から債務者の財産についての情報を得ることができる手続きです。「債権の内容」で開示を求められる財産に違いがあります。
養育費や婚姻費用の支払を求める場合には、不動産、給与債権、預金債権についての情報開示を求めることができます。ただし、「執行力ある債務名義の正本」が必要です(民事執行法205条、206条、207条)。
「債務名義」がない場合はどうすればいい?
・ 相手に改めて請求する
・ 内容証明郵便で請求する
・ 調停申立てや訴訟提起をする
口約束や離婚協議書だけで離婚した後、相手が約束を守らない場合には、改めて請求して任意の支払いなどを求め、それでも応じない場合には、「請求したこと」を後から証明できるように内容証明郵便でも請求しましょう。
それでも相手が支払いや面会交流に応じない場合には、「取り決めの内容」や「協議書の作成状況」に応じて、調停や裁判を起こし、債務名義の取得を目指します。
もっとも、面会交流のように直接的な強制執行に向かないケースでは、単に強制執行できる債務名義を取得することだけを目指すのではなく、相手への働きかけの工夫など、経験豊富な弁護士による適切な戦略が必要になります。
「約束条項」ってなに? 調停調書や和解調書があっても強制執行できないケースがあります
調停調書や和解調書は、強制執行できる債務名義の典型例です。しかし、すべてのケースで強制執行できるとは限りません。
調停や和解の条項の中には、「約束条項」という執行力のない約束を調書に記載しただけの条項があります。強制執行できる条項の場合、末尾は「〇〇円支払う。」などのシンプルな表現になっていますが、「約束条項」の場合、「~することを約束する。」などの表現になっているので、調停や和解成立時によく確認しましょう。
強制執行の手続き・流れ
1 強制執行の流れ(預貯金や給与を差し押さえる場合)
① 裁判所に申立てを行う
② 裁判官が差押命令を発令する
③ 第三債務者(銀行や勤め先)と債務者に差押え命令を送達する
⇒ 送達を受けた銀行や勤め先は、債務者に支払いをすることを禁じられます。債務者が先にお金を引き出さないように、第三債務者に先に送達します。
④ 第三債務者の陳述(送達を受けたときから2週間以内)
⇒ 差押えの対象となる預貯金や給与の有無、金額を回答します。通常は書面で回答します。
⑤ 取り立て
差押えた預金や給与債権を、第三債務者(銀行や勤め先)から支払ってもらいます。
⑥ 取立届・取立完了届
取り立てた(回収できた)分を裁判所に報告します。全額回収できた場合には、「取立完了届」を提出します。
2 必要書類
・債務名義の正本
※「執行文」「確定証明書」が必要なものと不要なものがあります。
・送達証明書
・収入印紙(債務者1人につき4000円)
・郵便料4000円前後(裁判所ごとに異なります)
・自分や相手の住所氏名に変更がある場合には、「つながりがわかる」住民票や謄本など
・第三債務者が法人の場合には、資格証明書
↓ 詳しくは裁判所のウェブサイトをご覧ください
養育費や婚姻費用の未払いについてはこちら
養育費や婚姻費用以外の未払いについてはこちら
強制執行の対象となる財産について
次のような財産が差押えの対象です。
・預貯金(金融機関名と支店名を把握する必要があります)
・給与(勤め先を把握する必要があります
・不動産(通常は差し押さえて競売にかけます。すでに銀行などの抵当がついている場合は注意が必要です)
・高価な動産(車や貴金属。売却して代金から回収します)
給与の差押えと「差押え禁止財産」
給与を全額差し押さえてしまうと、債務者(支払義務を負う人)が生活できなくなってしまいます。そこで、給与を差し押さえる場合には、受ける給付の4分の3(給与の4分の3が33万円を超えるときは33万円)が差押え禁止財産とされ、4分の1(または33万円を超える金額)しか差押えできないことになっています(民事執行法152条1項)。
しかし、婚姻費用や養育費の不払いは債権者側(支払いを受ける権利がある人)を困窮させてしまいます。そこで、婚姻費用や養育費については特例を設け、2分の1まで差し押さえることができるようになっています(民事執行法152条3項)。
面会交流や子の引き渡しでも強制執行できる?
離婚時に取り決める条件は、「お金の支払い」に関することだけではありません。
子どもに関する取り決め(面会交流やどちらが子どもを引き取るか)を相手が守らない場合にも、一定の要件を満たせば強制執行が可能です。
1 面会交流の強制執行は「間接強制」
間接強制とは、義務を履行しない(決まった内容を守らない)債務者に対し、履行しない度に「間接強制金」の支払いを課すことで、心理的圧力を加えて義務の履行を促す強制執行です。
面会交流の実施について間接強制を行うためには、調停調書などの債務名義で、①面会交流の日時または頻度、②面会交流の時間の長さ、③子どもの受け渡し方法等が具体的に決まっていることが必要です(最高裁平成25年3月28日決定)。
2 子の引渡しでは「直接強制」を行うこともある
裁判所の手続きなどで監護者や親権者が決まったにもかかわらず、相手が子どもを渡さない場合も、強制執行が可能です(「子の引渡し」の強制執行)。
「子の引渡し」の強制執行では、面会交流の場合同様「間接強制」をすることも可能ですが、「間接強制」では相手が子どもを渡さない場合や子どもの安全を確保するために必要がある場合には、子どものいる場所に執行官が直接行って相手の子どもの引渡しを断行する「直接強制」の手段を取るケースもあります。
直接強制を行うかどうかは、子どもの年齢や相手の態度などを考慮して、子どもの福祉に十分配慮しながら判断します。また、執行官との事前の調整や連携が必要な難しい手続きでもあります。
強制執行にかかる費用と期間
1 強制執行にかかる費用
印紙代 | 債権執行(預金や給与の差し押さえ)4000円、間接強制や子の引渡しの直接強制の2000円。 |
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予納郵便料 | 4000円前後(手続き、裁判所ごとに異なります)。 |
執行予納金(執行官に納める費用) | 債権執行や間接強制では不要。子の引渡しで数万円。 |
資格証明書や住民票などの書類取得費用 | 必要に応じて数百円から数千円。 |
弁護士費用 | 30万円〜(着手金、報酬、実費など)。 |
2 強制執行にかかる期間
通常は1〜2ヶ月程度
ただし、不動産を差し押さえて競売にかけるような場合には、期間が半年以上かかり、費用も数十万円を裁判所に予納する必要があります。
また、強制執行の申立てをしても、「書類が揃っていない」「不備の補正が終わらない」場合には、裁判所は手続きを進めることができず、より時間がかかってしまいます。
強制執行は、相手の財産が散逸するのを防ぐためにもスピードが重要な手続きですから、不安がある方は早めにご相談ください。
離婚と強制執行のよくあるQ&A
Q 養育費が3か月未払いになっています。強制執行できますか?
A できます。未払いになった時点で「債務不履行」ですから、債務名義があれば強制執行可能です。
Q 慰謝料の支払いを合意した調停調書がありますが、相手の実家の口座を差し押さえできる?
A 差し押さえできるのは「債務者の財産」です。「実家の口座」が債務者本人ではなく親のものである場合には差し押さえできません。
Q 相手が無職で財産もないのですが、強制執行できますか?
A 相手に財産がない場合、預金の差し押さえなどを行っても「空振り」になってしまいます。「ないところからは取れない」という状況です。相手が「無資力」の場合には、分割払いなどを認めるなど、少しでも回収する方法を検討します。
Q 相手が口座を隠しているかもしれません。どうやって調べればいいですか?
A 弁護士照会などの方法で調査できる可能性があります。ぜひ一度ご相談ください。
離婚問題での強制執行はお任せください
養育費や慰謝料の未払い、面会交流の不当な拒否などでお悩みの方は、泣き寝入りせず、弁護士にご相談ください。
弁護士・細江智洋は、横浜で離婚弁護士として12年以上。これまで280件以上の離婚問題を解決に導いてまいりました。離婚問題の経験豊かな弁護士として、単なる法律論だけでなく、実務的なノウハウと経験に基づいた具体的な対応が可能です。
• 「公正証書があるけど、どう動けばいいかわからない」
• 「相手の財産が見つからない」
• 「養育費の支払いが滞っている」
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この記事を担当した弁護士
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みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
当事務所は、離婚問題でお悩み方からのご相談を日々お受けしています。離婚相談にあたっては、あなたのお気持ちに寄り添い、弁護士の視点から、人生の再出発を実現できる最良の方法をアドバイスさせていただきます。まずは、お気軽にご連絡ください。